SPECIAL

特別寄稿
「瀬戸口廉也を語る」

瀬戸口廉也が手掛けた作品に
影響を受けた方々からの寄稿企画

column 01
ライトノベル作家・漫画原作
月夜 涙

 はじめまして、月夜 涙です。

 瀬戸口廉也さんの作品が好きで全作品楽しませていただいております。

 私がここまでハマっているのは彼が描く主人公の素晴らしさによるものです。

 どの作品でも自分の世界が非常に強固で世間からずれてしまった主人公が描かれています。

 なのに頭がいいから彼らは世間と折り合いをつけてしまえる。葛藤で苦しみながら。

 そんなしんどい主人公を見てるのが楽しくてのめり込んでしまう。

 と、ここまでが前振りです。

 今日は「SWAN SONG」という作品を紹介させていただきます。 「SWAN SONG」を紹介するのは私が一番好きな作品だからです。

 内容をかい摘んで話すと、ある大雪の日に大地震が起きてしまう。それにより一つの街のインフラがすべて破壊され、外との連絡もつかなくなってしまった。

 わずかな生存者たちが身を寄せ合い、初めのうちは助け合って行きていく。

 しかし、いつまで経っても外からの助けはない。生きるのに必要な物資は尽きていく。

 そうなると生きるために奪い合い、弱者の排除が始まる……。

 災害時における極限状態を、キャラクターの視線を切り替えながら群青劇のように描いていく。

 と、それ自体はありきたりな話です。似たような話はいくらでもあるでしょう。

 この作品の素晴らしさは、人間を生々しく描ききったことにあります。

 どうしても作家というのは主人公側に並べる人間は、悪いところや駄目なところを作りますが、良いところを引き立てるスパイス程度に抑えて使う。

 悪側と出した人間は、それを断罪したときにカタルシスを与えるように設計する。

 そうしたほうが物語として面白いから。

 だけど、「SWAN SONG」の場合は主人公側の良い人ですら気持ち悪く弱くずるい人間だったり、逆に悪人の中身は追い詰められただけの良い人だったり、現状を正しく見据えているからの悪行だったりします。

 生々しすぎて気持ち悪い。現実の理不尽さがそのまま押し寄せてくる。逆転や奇跡はない。物語の作法としては間違っている。

 なのに面白い。目が離せなくなる。

 そして、この作品を際立たせるのが極限状態で誰もが裏の顔を見せるなか、一人だけ変わらないままの彼女。

 長く語りましたが、非常に胸糞悪くなりますが、それを楽しめる稀有な作品なのでぜひ楽しんでください。

 過激な展開で胸糞悪さを作ることは簡単ですが、人間の内面描写だけで眼を背けたくなる醜悪さを生み出し、それを面白くできるのは瀬戸口廉也さんだけです。だから憧れファンで居続けてきました。

 瀬戸口廉也さんの新作、彼の新しい世界を楽しみにしております。

月夜 涙

ライトノベル作家・漫画原作

小説家、漫画原作。代表作はアニメ化された「世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する」「回復術士のやり直し」

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